普段、呼吸に意識を向けることはあるだろうか。チベットに住むある7歳の男の子は算数や国語よりも先に呼吸について学んでいた。なぜ呼吸から学ぶのかと問われた彼は「呼吸は生まれた瞬間から死ぬまで最も身近な存在の一つだから」と笑顔で答えた。チベット仏教にはマチウ・リカールという僧侶がいる。ダライ・ラマとも身近な存在といわれる彼は世界一幸せな脳の持ち主として脳神経科学界では有名である。彼らは熱心に瞑想に取り組む。マチウ・リカールの慈悲の瞑想中の脳は、左前側の脳(左前頭前皮質)が反対の右側よりも活発に機能していることが研究で明らかになった。この左右の前頭前皮質の活動の差が幸福度と相関することが分かっている。
瞑想の効果はあげ出せばきりがないのだが、瞑想に取り組むことにより脳の前頭前野と感情の中枢の連携が強固になることが分かっている。これはダイエットにおいて特に重要だ。瞑想は僧侶だけでなく、ダイエッターも幸せにする。NudeBrainのトレーナーである山本さんは20kg体重を落としていく途中でこの瞑想に取り組んだことで不眠症が改善した。不眠と肥満も相関がある。リラックスすべき時にリラックスすることを選択できるかどうかは極めて重要な要素である。
人は衝動的になっているときに扁桃体と言われる脳部位が活性化する。それによりノルアドレナリンやコルチゾールといったホルモンが作用し血圧が上昇する。この状態は直感的な言動を引き起こす。衝動性と肥満は相関関係にあるのだが、この感情の中枢とも言える扁桃体と前頭前野の連携が強いほど理性的な判断が得意になると考えられる。つまり、瞑想に取り組むことで自分を観察し適切な行動をとることが上手くなる。このように自分の事をよく理解している人の方が健康的、幸福度が高い、収入が高い、優秀な子どもを育てる、効果的なリーダーなるなどの傾向が報告されているくらい瞑想は人生を変える可能性がある。7歳の彼が呼吸について学び、瞑想に取り組むメリットはこのように科学的にも説明できる。
ちなみに瞑想は一日3分程度でも続けることで効果を得ることができると考えられている。個人的には3分と決めずとも、ふと衝動的になりそうな時や落ち着きを取り戻したい時に長く息を「ふーーーーーっ」と一度だけ吐き切るだけでも一定の効果はあると思う。日常生活の中で少しの「間」を設けることで衝動的になりそうな自分に気づく。気づくと行動を選択する時間的な猶予が生まれる。晩御飯を何にするかを検討するとき、ご飯をおかわりしようか悩む時、イラッとしてつい食べ過ぎに走ってしまいそうな時、「ふーーーーーっ」と息を吐いてみてほしい。いきなり全てを理性的に選択できるなるようになる必要はない。まずはどんな時に自分が自分にとって有効でない選択をとりそうになるのかを知ることから始めていけば十分だ。そのように気付けるようになることで、脳のサリエンス・ネットワークという回路は強くなる。この回路はまさに気づきの回路である。使えば使うほど強くなるのが脳の特徴。1日に何回か息を吐くだけで脳は形を変え、その間によって生まれるあなたの理性的な脳があなたの体型まで変えていく。
ぜひ「ふーーーーーっ」と一息つくことから始めてもらえたらと思う。