「私は変われますか?」

すべて 脳と心

人は日頃の習慣や考え方などをどの程度変えられのか。人は簡単には変われない」と考える人も少なくないと思う。私自身も理由もなく3年前まではそのように考えていた気がする。でも、人の脳と感情、思考、行動の関係を理解すればするほど、「簡単に変われない」と言い切るのは単純すぎるし、むしろ「人は変わらずにはいられない」ということを知った。これは習慣を変えていく上でとても重要な話だ。私たち人間の習慣が変化する仕組み知っていることで、習慣を変えることをスムーズにしてくれる研究はたくさんあるし、「グロースマインドセット」という言葉で世間的には知られている。ダイエットにおいても必須の理解。自分に自信がなかったクライアントの男性に本当に起こった物語を参考にお伝えします。

まず体重を減らすためにやることをシンプルにまとめると、
①摂取カロリーと消費カロリーの現状を知る。
②そして、消費カロリーよりも摂取カロリーを減らす。
特殊な原因がない限りこれで痩せます。シンプルに言えばただそれだけ。(例外もある。ホルモンが適切に機能しないなど。)

それだけだが、ただそれが難しい。毎日管理していなかったことを管理すること。毎日我慢していなかったことを我慢すること。自分の「当たり前」を変えるということ。やらなければいけないと思っていることをやること。面倒臭いと思うことをやること。つまるところそれは「習慣を変える」ということ。だから今日は「変わりたい」と強く思っていたクライアントが実際に手にした変化を参考に話しを進めます。

彼がコーチングを利用した目的は「自信」を手にいれるため。当時の彼は職場で少しでも不安を感じると震えが止まらなくなることがしばしばあった(適応障害のような症状)。加えて、彼自身は自分のことを集中力がなく何かを新たに習得するのが人より苦手だと思っていた。どうすれば自信が持てるのか。彼なりの考えは知識をつけること。だから彼が「脳について学びたい。人について深く理解したい」と思ったのも自分自身をより理解したいと思う気持ちと、知識を身につけたいと言う気持ちからだった。

では知識をつけるには何をすればいいだろう?集中力がないという彼が、これができたら知識が身につき自信になると考えたのが読書でした。実際、当時の彼はYouTubeの動画などを見ては様々な情報に振り回されてばかり。読書は眠くなるからと本を開くことさえできない状態。

そんな彼が「私は変われますか?」と質問してきた。そもそも「変わる」とはどいうことか。これを考えるために、人間のクセや価値観、習慣などが脳の中でどのように作られるかを知るとわかりやすい。例えば、私たちは宇宙に行ったらどんな気持ちになるかを想像してみる。「自分のちっぽけさを実感しそう」とか、「地球の美しさに感動しそう」とか人によって様々な想像をするだろう。答えは人それぞれ。では、この想像は何によってもたらされるのか。その想像の源泉が記憶。記憶は過去に、私たちが知覚したものの結晶です。宇宙に行ったことがないのにまさに今、宇宙について想像できるのは、テレビやインターネット、本などで宇宙を見たことがあるから。つまり過去に視覚として知覚したから記憶している。知覚している時、脳では電気的な信号が発生している。まるで家電製品のケーブルみたいなもの。この配線が無数につながっている集合体が脳であり記憶だ。この配線を形作るのがニューロン(神経細胞)だ。

そしてこの脳の配線は太くなったり、細くなったり、つながりを強くしたりしながら常に変わり続けている。およそ840億個のニューロンが無数に繋がりあって配線を作っている。見たことも、聞いたこともないものは私たちはわからない。例えば、目の前に得体の知れない物を出されて「この食べ物の味を説明してください」と言われてもできない。これは味覚として知覚したことがないから、その食べ物に対応する配線がないからだ(記憶が無いから)。そもそも見たことさえなければ食べ物かどうかさえわからないかもしれない。ではコーヒーの味を説明してくださいと言われたらどうか。コーヒーを飲んだことがある人は「苦味がある」とか「コクがある」とか過去の記憶に基づいて説明する。生まれてからこれまで、たくさんのものを見たり聞いたり、味わったり、または実際に歩いて体の動かし方を覚えたりしながら、たくさんの配線(記憶)を作ってきた。つまりこの配線の変化こそが記憶の変化であり、この配線が私たちのクセや価値感や習慣を形作っている。私たちが「変わる」というのは、この脳の配線を変えることそのものというこだ。

本題はここから。果たして脳の配線は変えられるのか。もちろん答えはYes。昨日どこにいたか。今日は何をして過ごしたか。この文章の意味をどうやって理解してるか。これはすべて脳の配線の変化によるもの。私たちは今この瞬間も何かを見たり聞いたりを繰り返し、そのすべてが私たちの脳の配線に影響する。そしてこの変化は死ぬまで続く。

脳が常に形をかえているという事実を知っているかどうかで、その後の変化や成長の度合いが大きく変わることがわかっている。ある著名な心理学者がニューヨークに住む子どもたちに脳の記憶の仕組みを伝えることでどの程度成長が促されのかを確かめるために実験を行った。その結果、脳の仕組みを知った子どもたちが、それを教わっていない子どもたちと比べて成績が向上した。それだけでなく、貧困地域に暮らす成績が優秀でない子どもたちが、裕福な家庭で育った成績が優秀な子どもたちの成績を追い越してしまうという成長を遂げた。人の習慣や記憶は毎日の生活しだいで変わると知った子どもたちは変化が加速したということだ。

私たちも大阪市内の高校生を対象に脳に関する研修を行った。参加した高校生たちの全国模試の偏差値が1年で4〜5も上昇した。例年よりも京都大学への進学者が10名以上増えそうと報告を受けた。正直、驚いたがそれだけでなく、ダイエットにおいても1年で20kgの減量に成功し、不眠症や便秘を改善する変化まで起こすことができた。

このように脳が変わることを知ることで、自分の可能性に対する認識が変わる。私たちの能力や習慣は固定的ではなく、変わりやすいと認識している状態のことを「グロースマインドセット」という。「私は簡単には変われない」はただの思い込みでしかない。きっと、5年前の自分と比較すると食生活から、好きな番組や、毎日行っている仕事なんかも全てが変わっていると思う。緩やかすぎて、また何気ないことだと考えてしまい変化している実感はあまり無い人の方が多いかもしれない。あらためて考えてみないと「自分が変化した」と捉えられないのが一般的なのかもしれない。特に、ダイエットしたいけどうまくいった経験がない人からすると、「人は簡単には変われない」という思い込みが強くなっていたとしても全く不思議ではない。

「私は変われますか?」と聞いてきた当時の彼にもこの脳の性質を伝えた上で「どうやって変わらずに居続けられるか」ということを考えてもらった。実際、私たちは変わらずにいることはできない。脳だけでなく体の細胞も全部変わっていく。せっかく変わるなら惰性で変化せず、自分でどんな変化をするかを選べばいい。

日々変化することを理解した彼は、2ヶ月後には毎日60分程度本を読むようになっていた。そして、1年半たった今は平日3時間、休日は5時間の独学を行うようになっている。彼は26歳。人生100年時代の残り74年で考えるとその学習時間は97,500時間になる。仕事中に不安を感じて体が震えることも一切無くなった。このように変わるために、彼が脳について理解する以外にも、自分と向き合う(自分を受け入れる)ために行ったことは他にもあるが、全ては自分を知ることにつながった。その結果、自分を大切するようになった。

理論上は「私たちは変化する」とわかっても、それを体感をもって理解していることとは差がある。そして日々の変化はとても小さく捉えがたい。例えば先ほどの彼の場合、読書習慣を作るために最初に始めたことは、「1日1回本を開く」こと。たったそれだけ。誰からも気づかれない。しかし、そうやって始まった小さな変化が1日10分の読書になり、1日30分になり、60分になり、それが今では平日3時間、土日は5時間になった。その最初の変化が、「本を開く」こと。彼はその些細なことを自分自身で起こした変化だと認識するためにその日出来た事を記録した。人はいつからでも変化することを理解し、毎日の変化を自分の記憶に書き込む。今日できた小さな一歩を毎日記録していく。こうして変化していることを強く実感する。毎日の小さな選択が今日の脳と体と心を作っていることを理解していく。地に足をつけて、自分の力で自分を変えていける。そんな自信が少しずつ強くなっていく。そうやって彼は変わった。

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